日記を書く男

大学時代私の中の良かった人で、日記を毎日かかさず付けていた人は彼だけだと思う。
いつもは麻雀を打ちに行くからと言い、時にはお金が無くて私に五千円ほど借りて遊びにいくような人間である。
研究もほとんどやらず、私や教授から卒業できるか心配されていた彼だが、あまり彼自身悩んでいるようには見えなかった。

彼はそういうことを気にしないのだ。
自分のやりたいことをとにかく最優先に持ってくる。
やろうと思ってもなかなかできないが、彼はいとも簡単に自分の行動を自分の欲を一致させる。
しかし、相手を不快にするようなことはなく、あくまで自分の楽しむ範囲内、迷惑をかけないところでしたいようにしていたという印象だ。
そんな彼の性格と海外に留学していたという経験を結びつけ、「海外かぶれ」というあだ名を付けてやったこともあった。
説明するまでもないだろうが、海外の人は集団の利益より自分の意志を大事にするという一般的解釈だ。
その彼とは非常に仲が良く、毎日のように昼ごろ出かけては大学周りのご飯屋さんに入り、ランチを食べながら気付けば3、4時間話し込んでいたこともある。
そんな中で出てきた話で彼が日記を付けていることを知った。
大学に入る前、高校生の頃から付けているというのだ。
律儀に毎日かかさず書いているという。
彼がそんな人だなんて想像できなかったから、「嘘だろう」と何度も疑いをかけたが、実際に付けているデータを見せてもらったので、真実であることは間違いない。
「データ」という言い方をしたのは、彼が日記をワードで作成していたからだ。
そんな人を私は他に知らない。
日記サービスやブログサービスでオンライン上で記録に残している人は大勢いるだろうが、ワードで日記を書き、データファイルとして毎日保存しているのはなかなか珍しいだろう。

«