社会の先生
友達で社会の先生になった人がいた。
いや、今では自動車会社で働いているが、大学で教職過程を取り、教員免許を取得したと言った方がいいだろうか。
彼とは中学の同級生だった。
高校では私が市内の進学校に行き、彼は2つ隣の町にある学力では1つランクが下の学校に進んだ。
高校に入って少し経っても、関係性は変わらずたまに連絡を取ったり、休みの日にカラオケに行ったりしていた。
しかし、お互いに自分の近くにいる友達と遊ぶようになるのは人間の常だろう。
私も例に漏れず、だんだんと中学の友達とは連絡を取らなくなっていった。
サッカー部が忙しかったこともあるし、高校3年生になってからはひたすら受験勉強に追われていた。
そんな時だった。
街の図書館で勉強をしていた私の前に彼が現れたのだ。
小さな街だ。
買い物に行けば、誰かしら小学校や中学校の同級生を見かけることになる。
それでも彼とは疎遠になって以来、初めての面会だった。
ただ当時は猛烈に受験勉強に励んでいたので、再会を喜ぶこともなかったし、あまり時間を取られたくないという気持ちが強かった。
それでも世間体のいい私は彼と丁寧に会話をしていたつもりだったが、ワイワイノリよく話すタイプではないので、お互いに沈黙する時間があった。
沈黙しているなら勉強しようと教科書に目を落としたりしていたのだろう。
彼は「昔と変わったね」と言い残し、私を見限るような目でこちらを見てから去って行った。
それから受験勉強の成果もあって、大学に無事進むことになり、もう中学校の同級生の記憶は薄れていっていたのだが、ひょんなことから彼とまた再会することになった。
彼に当時の事を謝ろうと思った。
でもその話を切り出した途端、彼の方から謝ってきた。
自分は進学校にいたわけではないから、受験勉強の大変さを知らなかった。
今ならあの時の気持ちが理解できると言ってくれたのだった。